ハイドロリリース
近年運動器領域の超音波エコーの解像度が飛躍的に進歩し、今まで見えなかった小さな神経まで明瞭に描出できるようになりました。超音波エコーの利点は何よりもリアルタイムに画像を見ることができるため、患者様が痛いという部位に直接超音波エコーの端子(プローブと言います)を当てると瞬時に体の内部の神経、血管、筋肉などを患者様と共に画面で確認できます。体が痛みを感じるのはそこに神経があるからです。例えば「肩こり」の原因は僧帽筋という筋肉と肩甲挙筋という筋肉が硬くなり、その間を通る神経が牽引されたり、動きが悪くなるためと考えられています。この神経の周囲(神経外膜)に細い針を使って液体(運動麻痺が起こらない低濃度の局所麻酔薬)を注入することで神経の動きを改善すると、瞬時に肩こりが消失することがあります。エコーを見ながら行うので血管などに液が入る危険性もありません。このように超音波エコー下に神経周囲の結合組織に液体を注入する手技を「ハイドロリリース」と言います。
ハイドロリリース
ハイドロリリースを発案し、命名したのは、共に肩関節が専門の整形外科医で、学会活動を通して長年の友人でもある秋田の皆川洋至先生らです(秋田に見学にも行きました)。肩こりに限らず、首や膝など痛みを引き起こしている神経をエコーで同定できればハイドロリリースにより痛みの改善に加えて診断も可能です。頚椎から出る神経の圧迫症状であれば頸部神経根ブロックもハイドロリリースの手技で可能です。十分な濃度の麻酔薬を使い、50肩の治療であるサイレントマニピュレーションの際の上肢伝達麻酔にも応用しています。整形外科の治療は超音波エコーの進歩のおかげで痛みを引き起こしている末梢神経から病態を捉え、正確な診断と根本的な治療が可能な時代に変わりつつあります。
ハイドロリリース

肩こりとハイドロリリース

肩こりを訴える患者様の中には首の後ろの筋肉から頭の付け根が痛いと訴えることがあります。このような場合、肩というより背中側にある筋肉の動きが悪くなり、小さな神経が痛みを発していることが原因です。エコーで確認し、神経の周囲に極細針の注射で薬液を注入することで神経の動きを良くする(ハイドロリリース)と痛みが取れることがあります。腰の痛みも同様です。

ハイドロリリースの流れ

問診・エコー
超音波エコーで画像を見ながら、痛みの原因となっている筋膜や腱、神経をリアルタイムに確認します。
リリース部位の決定
痛みの原因部位を探し出し、薬液を注入する部位を決定します。
注射
エコーで確認しながら、極細針の注射の針先を注入する部位を誘導し、薬液を注入します。
筋膜や神経の癒着を剥がし、痛みに対する治療を行います。痛みは瞬時に取れることもあります。